事業計画を練る段階で、法人(この章においては、主に株式会社)を設立したほうがよいのか、個人事業でスタートしたほうがよいのかは、自ずと決まります。 しかし中には「起業・開業するなら法人以外にありえない」と、最初から法人設立を前提に計画を立案する人もいらっしゃいます。
会社を退職して起業する方は、その傾向が強いようにも思えます。
起業・開業時から、個人事業ではなく法人を設立する選択をするのは、起業後にメリットとなる税金対策よりも、次の3つの理由からが多いようです。
- 既に販売先等が確定しており、法人化して対応するため
- 個人事業より高い信用を得られるため
- 起業・開業は株式会社の設立以外に考えられないため
法人化のメリット
法人(会社)を設立するメリット・デメリットに関しては、専門の書籍が多数出版されていますので、事業形態で迷われている方は既に何冊か購入して目を通されることと思います。ここでは、その法人設立のメリットとデメリットについて、主要な点に簡単に触れておくに留めます。
- 社会的な信用が高くイメージも良い
- co.jpドメインが利用可能
- 有限責任
- 節税対策の幅が広がる
メリット1:社会的な信用が高くイメージも良い
個人事業と比較して、法人(会社)は社会的な信用が高いため、さまざまな点で差が出てきます。取引先から信用されやすい、融資申請が通りやすい、従 業員を雇用しやすい、などなど。上で少し触れましたが、取引先や販売先が既に決まっており、それらの企業の意向で法人化するという場合も、この信用が高いからというのが理由でしょう。
この社会的信用という面を逆から見るかたちになりますが、起業したということを対外的にアピールする際に、株式会社等の法人で設立したほうが見栄を張れるからとイメージ的な面を重視する人もいます。見栄のために法人化する必要はないとも考えられますが、せっかく起業するのですから、経営者の気持ちが 前向きになる形式のほうがよいとも考えられます。株式会社等の設立が、経営者のやる気や覚悟に資するようであれば、たとえ税金面でデメリットが生じても検討してみる価値はあると思います。
メッリト2:.co.jpドメインが利用可能
古物商許可を取得した後、ネットショップなどを運営する予定があるなら、法人化することによって.co.jpドメインが利用できるというのは、大きなメリットです。co.jpドメインは、法人(と一部の組合など)しか利用できないドメインですから、ドメイン名にも法人であることの信頼性を付加することが可能になります。
メリット3:有限責任
個人事業の場合、事業の責任は無限責任であり、個人的な財産を含めて責任を負わなければなりません。一方、法人(ここでは株式会社)の場合は有限責任ですから、法人の負った債務を個人的な財産で支払う必要はありません。
メリット4:節税対策の幅が広がる
個人事業主と比較して、法人は様々な税金対策を試みることが可能です。一定以上の収益が上がるようになったら、法人化すると節税対策が効果的に機能するかもしれません。
法人化のデメリット
- 新会社法で会社設立と信用の結びつきが弱まった
- 設立や運営に手間と費用がかかる
- 代表者が連帯保証人になることがほとんど
- 法人住民税の均等割は赤字でも支払う必要がある
デメリット1:新会社法で会社設立と信用の結びつきが弱まった
デメリットは、それぞれメリットの裏返し的なものとなります。数年前から施行されている(新)会社法では、資本金が1円から株式会社の設立が可能になりました。事実上、資本金はいくらでもよいということになったわけですから、株式会社であることがそのまま信用が高いというイメージはなくなりつつあります。
デメリット2:設立や運営に手間と費用がかかる
個人事業であれば、許認可等は別としても、開業する意思があればその日から即開業できます。しかし法人であれば、まずはその法人を設立する手続きから始めなければなりません。また設立には諸費用がかかりますので、開業・起業に必要な資金もより多く準備する必要がでてきます。
起業後も、記帳や決算書類の作成などを外注する場合、それぞれ費用や手間がかかってしまいます。
デメリット3:代表者が連帯保証人になることがほとんど
個人事業なら無限責任、株式会社や合同会社なら有限責任になりますが、会社が融資などを受け債務者となる場合、その代表者も連帯して保証人となる (それが融資の前提となっている)ことがほとんどです。
ごく少人数で起業するという場合などは、責任が有限であるからという理由だけでは、法人化するメ リットはあまりないかもしれません。
デメリット4:法人住民税の均等割は赤字でも支払う必要がある
収益が多くなったら節税対策でメリットの多い法人ですが、逆に収益がかなり少ない場合には、法人住民税が大きくのしかかることになります。住民税は個人事業が赤字であればほとんど支払う必要がなくなりますが、法人は赤字でも必ず一定額支払わなければならない税金があります。
起業・開業直後は赤字になることが多いので、住民税の均等割は法人であることの年会費のように考え、かならず生じるコストとして金額と支払い時期を常に意識しておきましょう。
株式会社か合同会社(LLC)か
(新)会社法施行後、新たに有限責任社員からなる合同会社という法人を設立できるようになりました。
合同会社のメリット・デメリット
合同会社には、設立手続きが簡単である(費用も株式会社と比較して少なくて済む)、内部自治が相対的に自由である、利益分配に柔軟性がある、などのメリットがあります。
もっとも、現時点においては、合同会社という法人形式そのものに対する認知度の低さというデメリットが大きいため、よほど合同会社のメリットを熟知して設立するのでない限りは、株式会社を設立しておくほうが良いケースが多いように思います。
法人設立の土壇場になって「やっぱりLLCのほうが設立費用が安くていいかな?」と悩んでしまった場合は、たぶん当初の予定通り”株式会社”で進めてしまったほうが、時間のロスがなくていいのではないでしょうか。